トロフィー・パレードでスピーチを行った際、ポステコグルーは観衆から熱狂的な声援を受けた。彼は、結局は実現しない約束として残ることとなる「3年目」への展望を語っていた。彼が当初任命された理由のひとつは、クラブの顔として公の場で発信できる存在、皆が団結できる旗印としての役割を果たすためであった。そのパレードでの姿を見れば、彼がまさにその役割を果たしていたことは明らかだった。同時に、スパーズの決断に同意し、今こそ変化のときだと考えるファンも依然として多い。だが、そう考えるのが主流だったのは、ほんの数ヶ月前のことである。
それゆえに、ポステコグルーの退任は、近年のトッテナムの監督交代のなかでも最も奇妙なものとなった。彼が去ったのは、ファンが完全に背を向けたときではなく、むしろ多くのファンが再び彼の側に立ち始めていたときだった。そして、彼の前任者たちの多くが、選手たちの不満が爆発し、チーム内の空気が完全に毒されてから去っていったのに対し、ポステコグルーは困難な時期にも終始チームから驚くほどの忠誠心を得ていた。
ポステコグルーは独特なマネジメント・スタイルを持っていた。彼は人との距離を取り、トレーニングはアシスタントに任せ、小さな雑談や気軽な会話などは行わなかった。ある関係者は、その距離感に驚嘆し、彼のことを「一匹狼」あるいは「怒れる熊」と呼び、スヌードで顔を隠しながら険しい表情で歩き回る姿を思い出していた。肩を抱いてくれることを望んでいた選手や、自分がどう見られているのかよくわからずに戸惑っていた選手もいた。一方で、ポステコグルーが誰に対しても態度を変えず、お気に入りを作らず、コンテ時代のような感情の起伏もない点を好ましく感じていた選手もいた。
その距離感には論理的な理由があった。まず第一に、それによってポステコグルーは冷静な判断ができるようになる。そして第二に、そのぶんを試合前のミーティングに全力で注ぎ、最大限のエネルギーと情熱を注ぎ込むことができる。1週間を通して築き上げた「オーラ」を、その場で一気に爆発させるためである。選手たちが近ごろ語っていた内容、特にヨーロッパリーグでの戦いへ向けたモチベーションについて聞けば、彼のこのアプローチが勝利にいかに不可欠だったかがわかる。
ポステコグルーは、クラブ・ハウスの壁に飾られた過去の優勝チームの写真を選手たちに見せ、「あの壁に並べ」と語った。決勝前には選手の家族にメッセージを録音させて、チームに届けさせた。シーズン最後の3試合で、それまで冷遇されていたイヴ・ビスマを復帰させたときには、それまで誰も見たことのないレベルのパフォーマンスを引き出してみせた。ヨーロッパリーグをこのような形で制することができたのは、ポステコグルー以外にいなかっただろう。
その後、議論の焦点となったのは「トロフィーを獲ったのだから、彼は続投に値するかどうか」ではなかった。問題は、この2年間の実績、良かった1年目、悪夢のような2年目、そして1つのタイトルを総合的に見たときに、3年目の指揮を託すにふさわしいのかどうか、ということだった。