アカデミーの問題解決
コンテの体制になってから生じている問題の一つに、アカデミーからトップチームに昇格する明確な道筋がないことが挙げられる。試合に勝つために即戦力を求めるイタリア人は、国内のカップ戦でさえ、アカデミー出身の若い選手に出場時間を与えてこなかった。
コンテの若手選手育成に対する考え方は、これまでの監督とは異なる。彼は、自分が育成の一翼を担うのではなく、アカデミーのスタッフがトップチームのフットボールに通用する選手に育て、自分のもとで即座にパフォーマンスを発揮することを期待しているのだ。
スパーズのDNAについて継続的に話すレヴィ会長の言葉からも、世界最高クラスのトレーニング・コンプレックスから若手選手の育成を促進する方針があるのは明確だが、一方で会長職に就いてから無冠が長く続いているため、コンテという最高のタイトル請負人を招聘することで、若手育成の方針との対立というジレンマにぶつかっている。ファンは当然のことながらタイトルを渇望しているが、アカデミーにおいて、トップチームへの道筋が閉ざされたままでは、今後数シーズンで優秀な若手を失う危険性がましてしまうだろう。
一つの選択肢としては、スパーズがチェルシーのような方法を採用することで、最高の若い才能たちをノースロンドンに残すことなくローンで他国リーグに貸し出し、そこで実戦の中でレベルアップさせて、やがてコンテのチーム戦力の中でポジション争いに挑戦させるというやり方だ。
短期的な「結果」と長期的な「育成」とで、どちらを重視するかはレヴィの判断次第だ。
ハリー・ケインとの新契約
もうひとつ、早急に合意しなければならない重要な契約交渉があり、それはハリー・ケインとの契約である。
今シーズン、プレミアリーグ15試合に出場し、12ゴールを挙げているこの29歳のストライカーは、これまでにクラブで261ゴールを記録し、トッテナムの歴代最多ゴール数を誇るジミー・グリーブスにあと5ゴールと迫っている。
しかし、ケインはスパーズとの契約をあと1年半しか残しておらず、クラブは今後も数年に渡ってクラブ史上最高の選手を確実に留めて置かなければならない。彼のスピードに頼らないプレースタイルは、30代になっても世界最高のストライカーの一人として全盛期を維持し続けることが可能であろう。
ケインとコンテの契約は、どちらかがまず契約書にペンを走らせることで、もう一方に必要な野心を示すことになるため、相互に依存関係を持つ可能性がある。ケインはコンテを慕っており、コンテであればスパーズにタイトルをもたらせると信じているし、コンテもケインがタイトルを獲得するためのチームの原動力になる男だと考えている。
ワールドカップとあのハート・ブレイキングなPK失敗の記憶は、これからもイングランド代表キャプテンに重くのしかかり、自身のキャリアとその最後の数年間に必要なものについて、間違いなく多くの思考を巡らせることになるだろう。