レポート
「家に牛の農場があり、ずっとそこで暮らしていた」
サヴィオはブラジル東部の街サンマテウス近郊、家族が営む牛の農場で生まれ育った。「家に牛の農場があり、ずっとそこで暮らしていた」と、2024年にマンチェスター・シティの取材で振り返っている。牛の乳搾りや乗馬を覚え、祖父母の畑で野菜作りを手伝う生活を送っていたという。
5歳の頃、当時のコーチの1人が「将来フットボール選手になる」と予言し、11歳でアトレチコ・ミネイロのU-17を相手に才能を見せつけた。14歳で農場を離れ、実家から車で11時間離れたベロオリゾンテのアトレチコ・ミネイロに加入。母ドナ・ニウマさんが同行し、18歳になるまで息子と共に暮らした。
16歳でクラブ史上最年少となるトップチームデビューを飾ると、2021年にはブラジル選手権とコパ・ドブラジルの国内カップ二冠を達成。18歳の誕生日の1か月後には、コパ・リベルタドーレスのインデペンディエンテ戦(3-1勝利)でクラブ最年少ゴールも記録した。
「彼はプロフェッショナルで優れた頭脳を持っている」
アトレチコ・ミネイロでサヴィオの才能を見出した関係者の1人ジュニオール・シャバレは、「彼はプロフェッショナルで優れた頭脳を持っている。海外で成功し、世界最高峰のクラブでプレーする資質をすべて備えている」と評していた。台頭した才能はシティ・フットボール・グループ傘下のフランス・トロワの獲得につながったが、出場機会を得られず、2022-23シーズンはオランダのPSVへローン移籍。移籍先ではパリ・サンジェルマンから加入したばかりのシャビ・シモンズと意気投合し、公式戦でアシストを記録するなど手応えをつかんだが、負傷が続きU-21と1軍を行き来する日々が続いた。
「ヴィニシウス・ジュニオール以来、1対1でこれほど効果的な選手を見ていない」
19歳になったサヴィオは、2023-24シーズンにシティ・フットボール・グループ傘下のスペイン・ジローナへローン移籍。就任1年目の指揮官ミチェルはプレシーズンの練習を見ただけで強化責任者に電話をかけ、獲得への自信を語ったという。
結果的にジローナはレアル・マドリード、バルセロナに次ぐクラブ史上最高の3位でシーズンを終え、サヴィオはリーグ37試合(35先発)で9ゴール10アシストの合計19ゴール関与を記録。1対1突破の成功数もリーグ最多だった。ミチェルは「ヴィニシウス・ジュニオール以来、1対1でこれほど効果的な選手を見ていない」と最大級の評価を送っている。同時期にブラジル代表デビューも果たし、2024年のコパ・アメリカではパラグアイ戦で初ゴールを挙げた。
「その一歩を踏み出せば、彼は特別な選手になるだろう」
2024年夏、当時マンチェスター・シティを率いていたグアルディオラの下、姉妹クラブのトロワから同クラブへ完全移籍。コミュニティ・シールドではPK戦の5人目を沈める活躍でデビューを飾り、開幕戦のチェルシー戦(2-0勝利)で先発した。
2024-25シーズンはリーグ29試合(19先発)で10アシスト1ゴールを記録し、アシスト数はリーグ上位10位に入った。2025年6月のクラブ・ワールドカップ期間中、グアルディオラは若さゆえの伸びしろに触れつつ「その一歩を踏み出せば、彼は特別な選手になるだろう」と将来への期待を語っていた。
プレミアリーグ通算53試合でゴールはわずか2、アシストは12にとどまる。2025-26シーズンもリーグでの得点はクリスタル・パレス戦の1ゴールのみだったが、カラバオカップ3回戦・準々決勝やFA杯ラウンド16のニューカッスル戦では得点を記録し、アーセナルに敗れたカラバオカップ準優勝、チェルシーを1-0で下したFA杯優勝の両方に貢献した。
「得点できてこそ、彼は完成された選手になる」
移籍市場最終盤にマンチェスター・シティから加入したサヴィオは、背番号17を託されトッテナムでの新章を歩み始めた。デゼルビは8月26日(水)に行われたチャールトン戦前の会見で「得点できてこそ、彼は完成された選手になる。世界の一流ウインガーの多くはシーズン10〜15ゴールを記録している。その資質は彼にある」と、決定力向上への期待を率直に語った。
サヴィオはこの言葉に応えるように、カラバオカップ2回戦のチャールトン戦(5-1勝利)で途中出場からデビューゴールを記録した。右サイドから中央へ切れ込み、複数のディフェンダーをかわしてから流し込むゴールは美しい仕上がりだった。その3分後には、ペナルティエリア内からのシュートがベン・デイビスに当たってゴールとなり、記録上はアシスト扱いとなった。
記事解説
デゼルビが会見でわざわざ「得点できてこそ完成された選手」と言及した背景には、シティ時代のサヴィオが抱えていた明確な弱点がある。プレミアリーグ通算53試合でわずか2ゴールという数字は、創造性に富むドリブラーでありながらフィニッシュの精度に伸びしろを残していたことを示している。ミチェルがヴィニシウス・ジュニオールを引き合いに出したのは1対1突破の質についてであり、決定力そのものへの評価ではなかった点は見落とされがちだ。
その課題への回答をデビュー戦でいきなり示せたことの意味は小さくない。加入直後の公式戦初戦、しかもカラバオカップという比較的プレッシャーの軽い舞台とはいえ、途中出場から短時間でゴールと記録上のアシストを同時に挙げたことは、デゼルビが求める「フィニッシャーとしてのサヴィオ」の可能性を早々に示す材料になった。
一方で、グアルディオラが「その一歩を踏み出せば特別な選手になる」と語ってから既に1年以上が経過しており、シティでその変化は最後まで訪れなかった。トッテナムでの環境変化――デゼルビが明確に決定力を要求する指揮官であること、右にも左にも回れる戦術的自由度――が、シティ時代には引き出せなかった得点感覚を刺激する可能性はある。ただし1試合のデビューゴールだけで結論を出すのは早計であり、今後のリーグ戦でも同様の関与を継続できるかが、デゼルビの要求に応えられるかどうかの本当の試金石になるだろう。

