レポート
「コーチのためではない」──デゼルビが語る大型補強の意味
スパーズは今夏、ダニエル・レヴィ前会長時代の編成方針を大きく転換した。マンチェスター・シティとの間でサヴィーニョの獲得において8,500万ポンド規模の合意に達し、オマル・マーモウシュの加入も期待されている。サヴィーニョの加入により、スパーズの夏の補強総額は3億ポンドを超える見通しだ。すでにサンドロ・トナーリ(ニューカッスルから1億ポンド)、マテウス・フェルナンデス(ウェストハムから8,500万ポンド)、ヤン・ポール・ファンヘッケ(ブライトンから5,200万ポンド)が加入しており、マルコス・セネシとアンディ・ロバートソンもフリー移籍で加わっている。
デゼルビは今回の補強についてこう語った。
「彼ら(取締役会)は約束を守ってくれた。3月に私が来る前に言っていたことを守ってくれた。私はとても満足している。しかし、我々がやっていることはコーチのためではない。クラブのため、ファンのため、クラブの歴史のため、クラブの誇りのため、そしてクラブのレベルのためだ」
デゼルビはさらに、今回の補強がクラブにとって重要な転機であると強調した。
「この瞬間はクラブにとって極めて重要だと思う。2シーズン続けてあのような結果だったからこそ、雰囲気を変える必要がある。完全に変えて、勢いをつける必要がある。そして、この移籍市場が終われば、長い間多くを必要とせず、正しい状態、正しい方向で一丸となって、一歩ずつ特別な何かを築き、上位を争えるようになると思う。今すぐかもしれないし、そうではないかもしれない、分からない。しかし、あらゆるスタジアムで正しく戦えるだけのスカッドは揃っている」
レヴィの持ち株比率、27.38%まで静かに縮小
今回の大型補強を主導したのは、最高経営責任者のヴィナイ・ヴェンカテシャム、ディレクターのヨハン・ランゲ、そしてデゼルビの3人であり、成否の責任も彼らが単独で負うことになる。レヴィ在任時代の20シーズンのうち18シーズンでヨーロッパの舞台に進出していたことを踏まえれば、今回はヨーロッパ復帰が最低限の目標であり、チャンピオンズリーグ出場権の獲得が大きな目標となる。
一方で、レヴィ本人がクラブにどれほどの資本を残しているかは不透明なままだ。6月には保有株式の過半数をエイト・スポーツ・キャピタルに売却したとの情報が伝えられていたが、スパーズ側は株主の異動についての規制当局への通知をいまだ受け取っていないという。ルイス・ファミリーによる1億ポンドの追加出資に伴う株式発行にレヴィが参加する期限を逃したことで、親会社ENICにおけるレヴィの持ち株比率は29.88%から27.38%まで縮小した。同水準を維持するには、レヴィは5,000万ポンド規模の追加出資が必要だったとみられる。株式が正式にエイト・スポーツ・キャピタルへ移転するかどうかも依然として不明で、レヴィ本人・同社ともにテレグラフ紙の取材に対する回答を拒んでいる。
「スパーズはズボンを脱がされた」──ヴァンヘッケ移籍を巡るジョーダン発言
「レヴィノミクス」と呼ばれた従来の方針は、安く買って高く売るという理論だったが、実際には評価額や放出希望額の折り合いがつかず、ほとんど売買が動かないことも多かった。ヤン・ポール・ファンヘッケの獲得は、契約最終年の選手に5,200万ポンドを支払い、20%の転売条項にも合意したことで、レヴィを”刺激した”とされている。
talkSPORTに出演したサイモン・ジョーダンは、元イングランド代表GKのベン・フォスターとの対談中に、レヴィ本人からのメッセージを受け取ったとされる場面で発言した。
「ブライトンがどれだけスパーズのズボンを脱がせたかを示す事実を彼(フォスター)に見せていた。契約最終年で新契約を望んでおらず、これまでに契約が切れる直前の選手として5番目に高額だった選手の話だ。ダニエルが多少なりとも指摘していたのはその点だ」
新加入選手だけでなく、既存の主力選手にも新たな給与体系の恩恵が及んでいるとされる。ある関係者は「支払われている給与の一部は目玉が飛び出るほどだ。1年ほど前なら、スパーズがこれほどの金額を選手に支払うとは誰も信じなかっただろう」と語った。
ロメロとスペンスは合計6,400万ポンドで放出、”安値売り”への転換
補強面での大盤振る舞いとは対照的に、放出面でも従来とは異なる動きが見られた。クリスティアン・ロメロとジェド・スペンスの2人の放出で得た金額は合計6,400万ポンドにとどまる。ある関係者は「この市場では安い。ロメロはこれまで5,000万ポンドを大きく超える評価を受けていたし、スペンスは好調なワールドカップ直後だった」と話す。
別の関係者は、スパーズの優先事項が純粋にフットボールの中身に移っていると分析する。「彼らはおそらく、ドレッシングルームの雰囲気と混乱回避を優先したのだろう。両選手とも退団を望んでおり、クラブは最高額にこだわるよりも早期に送り出す決断をした」という。
グリエルモ・ヴィカーリオとラドゥ・ドラグシンはローン移籍で放出された。デゼルビは「トッテナムという大きなクラブにこれ以上残りたくないのであれば、去るべきだ」と述べている。さらに、公式戦出場が一度もなかったルカ・ヴシュコヴィッチについても、ブライトンへ最大5,000万ポンド規模のパッケージで放出することで合意した。
記事解説
今回の記事で最も皮肉な構図は、クラブが補強で大盤振る舞いを続ける一方、レヴィ本人の持ち株比率が本人の意思とは無関係に縮小している点だ。ルイス・ファミリーによる追加出資というクラブ側の決断に対し、レヴィが追加出資できなかった、あるいはしなかった結果として株式が希薄化したという構図は、経営権の移行が単なる会長職の交代にとどまらず、資本構成の面でも静かに進行していることを示している。
「安く買って高く売る」から「高く買って安く売る」への転換は、短期的にはファンの支持を得やすい派手な補強を可能にする一方、財務的な持続可能性という観点では検証が必要だ。ロメロとスペンスの放出額が合計6,400万ポンドにとどまったことは、選手の市場価値そのものよりも、ドレッシングルームの雰囲気維持を優先した結果だとみられる。移籍金の最大化よりもチーム内の一体感を優先する判断は、デゼルビが繰り返し強調する”雰囲気を変える”という方針と整合的であり、財務規律よりも短期的な競争力構築を優先する経営陣の意思がにじむ。
ただし、ヴァンヘッケ獲得を巡るジョーダンの発言のように、レヴィ自身がこの方針転換に苦言を呈しているとされる情報が非公式な形で漏れ出ていることは見逃せない。SCR(スクワッド・コスト・レシオ)の下で、給与も含めたスカッドコストの上限管理が一段と重要性を増す中、目玉が飛び出るほどとされる新たな給与体系が長期的にクラブの財務健全性にどう影響するかは、今シーズンの成績と並んで注視すべき論点になる。

