レポート
“格安”での退団
W杯で活躍したロメロとスペンスは、スパーズを去ろうとしている。デゼルビはすでに、こうした移籍がなぜ実現しなければならないのかを説明していた。キャプテンのロメロはアトレティコ・マドリードへ3,400万ポンド(4,000万ユーロ)規模で、SBスペンスはインテルへわずか2,700万ポンド(3,150万ユーロ)規模での移籍が見込まれている。
スペンスは昨シーズン44試合に出場し、ロメロは負傷・出場停止を挟みながら32試合に出場した。両者とも今夏のW杯で活躍し、昨年それぞれ長期契約を締結したばかりにもかかわらず、比較的低い金額での欧州移籍となる。
ロメロの移籍金は、公式戦出場が一度もなかった19歳ヴシュコヴィッチのブライトン移籍額を1,600万ポンド下回り、契約残り11ヶ月だったファンヘッケの獲得額も1,800万ポンド下回る。スペンスの移籍金も、W杯でわずかな出場時間だったトレヴォー・チャロバのコモへの移籍額を下回り、2022年のミドルズブラからの獲得額からわずか700万ポンドの上乗せにとどまっている。
プレミアリーグの”バブル”
この価格差は、プレミアリーグが置かれている”バブル”的な状況を如実に示している。イングランド勢同士の取引は大幅に移籍金が膨らむ一方、海外クラブではプレミアリーグ勢の潤沢な資金を見越して身構え、逆方向(イングランドから海外へ)の売却では、しばしば相場を大きく下回る金額に落ち着く。イングランド勢からの本格的な関心がない中、スパーズは前進する必要があり、これはノースロンドンの新時代の一部でもある。適切なタイミングでの売却を重視し、レヴィ前会長時代にたまに訪れていた大型の”払い出し”を待つことをしない、という方針転換だ。
「助けてくれるなら、私も助ける」
デゼルビはロメロとスペンスについて、遠征中にすでに方針を説明していた。
「私は就任当初から非常に明確にしていた。”トッテナムに残りたくない者、幸せでない者、ここにいることを誇りに思えない者は去らなければならない”と伝えた。私はここにいることに誇りを持ち、大きなモチベーションを持ってスタジアムのピッチに立てる、幸せな選手を求めている。W杯を見ても分かるように、モチベーションが違いを生む。モチベーションとは、あるチームにいることを幸せに思えることだ」
「今のトップクラブは、選手を売ることを恐れていないと思う。レアル・マドリード、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンでさえ、売らなければならない時は売る。適正な価格であれば、遠慮する必要はない。でも、お金を使うべき時には使う。強く、速く、素早く、適切な選手に、適切な投資をする」
デゼルビはfootball.londonに対し、ロメロが今夏の退団の意向をすぐに伝えてきたことも明かしている。
「就任当初、4月に、数え切れないほど多くの個別面談をした! 選手たちは自分の考えを話してくれた。私は”分かった、残留を助けてくれるなら、私も君の退団を助ける”と言った。もし残留を助けてくれないなら、君も私と一緒に沈むことになる!」
「W杯優先で欠場したというのは事実ではない」
「でもロメロは、私にとって信じられないほどの選手だった。トップだ。振る舞いも、敬意も。最終戦に出場できなかった時、彼は苦しんでいた。彼がアルゼンチンでのW杯準備を優先して最終戦を欠場したかったというのは、事実ではない。それは事実ではない」
「準決勝(対イングランド)の後、私たちはメッセージをやり取りしたが、残留を説得するために電話をかけることは一度もなかった。私は彼が伝えてくれたことを尊重した。ヴィカーリオの時と同じように、すべての選手に対してそうしている」
「選手としてのロメロは世界最高のセンターバックの一人だ。しかし最終的には、選手の意志を尊重したいと考えた」
スペンスへの想い、ポロとの序列
スペンスについては、現在のスパーズには彼のポジション(右SB)にW杯を制したペドロ・ポロがおり、ほとんど試合を欠場せず、攻撃面でも彼を大きく上回る貢献を見せている状況だ。ポロはこれまでのすべてのスパーズ監督から信頼されてきた選手であり、今やW杯ベストイレブンという最大級のメダルまで手にしている。デゼルビはスペンスを引き留めたい思いはあるものの、今シーズンという重要な局面で、不満を抱えた選手をチーム内に置いておくことは望んでいない。
「彼らに言っているのは、ジェドとルーカス(ベリヴァル)に言ったのと同じことだ。”残ってほしい”であって、”残ってくれ”ではない。”残りたいなら残ってほしい”ということだ。残りたくないなら、出て行かなければならない。その場合はヴィナイとヨハンと話してほしい。金額や売却は私が管理する話ではないからだ。ヴィナイやヨハンと最善の戦略について話すことはできるが、3,000万ポンドや4,000万ポンドを決めるのは私の立場ではないし、その立場を変えるつもりもない。監督業だけでも十分に大変だから、監督としての立場を守りたい」
「ただ、選手の考えや意見、プランは尊重する。ただし残るなら、ピッチ上での私のルールと決断に従ってもらう必要がある。2試合、3試合が過ぎて、出場できていない選手が不満を募らせたり、他の選手やコーチングスタッフ、クラブに対して正しくない態度を取り始めたりすれば、それは大きな過ちになる。昨シーズンの教訓を活かせていないことになるからだ」
記事解説
この記事の核心は、デゼルビ自身の言葉で語られた、ロメロとスペンスの退団に関する具体的な説明にある。特に「ロメロがW杯準備のために最終戦を欠場したがっていたというのは事実ではない」という明確な否定は、これまでSky Sports解説陣(オハラ氏、トーマス氏)が示していた”アルゼンチン優先”という厳しい評価とは異なる視点を提示している。監督は、本人が欠場できなかったことへの苦悩を強調しており、これは単純な”クラブへの愛着不足”という評価とは一線を画す。
「助けてくれるなら、私も助ける」という発言は、降格圏争いという厳しい状況下で監督と選手が互いに協力し合ってきたという文脈を明らかにしている。この相互協力の関係性が、今回の円満な退団容認につながっていると読み取れる。
一方で、この記事が持ち出す「プレミアリーグ・バブル」という説明には、疑問の余地も残る。もしこの説明が正しいなら、いくつかの噂こそ出ていたものの、ロメロやスペンスを高額で獲得しようとするプレミアリーグ勢のクラブは実際には現れなかった、あるいはスパーズ自身がそれを拒んだ、ということになる。プレミアリーグ上位陣への売却を避けるという姿勢は、ダニエル・レヴィ時代にも見られたものだが、これは同時に、スパーズ自身がプレミアリーグ上位陣から選手を引き抜くことも難しくするという意味を持つ。もちろん、キャプテンのロメロがアーセナルへ移籍するといった事態は決してあってはならないが、それ以外の上位クラブであったなら、判断は違っていたのだろうか。あるいは、そもそもロメロやスペンスが、プレミアリーグ上位陣が本気で高額を投じてまで獲得したいと考えるレベルの選手ではなかった、という評価も十分にあり得るだろう。
この構図は、今後のスパーズの放出戦略にとって、無視できない課題を示唆している。今夏、給与水準を大きく引き上げたスパーズが、今後実績十分な余剰戦力を納得のいく移籍金で放出しようとした場合、現実的かつ有力な、あるいは唯一の売却先はプレミアリーグ上位陣になる可能性が高い。プレミアリーグ以外のクラブでは、資金力の差から相応の金額を引き出しにくいためだ。もしスパーズが、”プレミア上位陣を避ける”という姿勢を今後も貫くのであれば、その放出ルートを自ら閉ざし続けることになる。その結果、実績ある選手であっても、選手本人だけが納得する海外のビッグクラブへ買い叩かれる形での移籍を強いられ続けるという負の連鎖が、今後も繰り返される可能性がある。

