ラグビーのニュージーランド代表(オールブラックス)がネーションズ・チャンピオンシップでアイルランドを破ってからわずか数日後、イーデン・パークでフットボールが主役となる。トッテナムはニュージーランド&オーストラリアツアーの初戦でオークランドFCと対戦する。
オークランドFCは5月に行われたグランドファイナルでシドニーFCを破り、ニュージーランドのクラブとして初めてAリーグ王者※となった。
※オーストラリアとニュージーランドのクラブが参加するフットボール(サッカー)のトップリーグ
数名の選手がワールドカップのニュージーランド代表メンバーに選出されていたが、新シーズンを前にスティーブ・コリカ監督がJリーグの横浜F・マリノスへ引き抜かれた。
ニュージーランドにおける男子フットボール最多観客記録(これまでの最多は2023年女子ワールドカップの43,217人)の更新が見込まれる中、相手チームに何を期待できるのか。『ニュージーランド・ヘラルド』紙のシニア・スポーツジャーナリスト、マイケル・バージェスに話を聞いた。
🎙️ イーデン・パークでのオークランドFCに何を期待できるか?
マイケル
「非常に大きな意味を持つ試合だ。若手選手をはじめ、多くの選手にとってプレミアリーグのチームと対戦することは人生最大の試合であり、夢見てきた舞台だ。オークランドFCはAリーグを制し、ニュージーランドのチームとして初の快挙を成し遂げた歴史的シーズンを終えたばかりだ。2007年から参加しているウェリントン・フェニックスも成し遂げられなかった偉業であり、チームには強い自信と信念が根付いている」
「しかし、状況は大きく変わっている。主力選手3〜4人が退団し、代表でワールドカップを戦った2〜3人も欠場するため、ラインナップには未知数な部分が多い。さらに、タイトル獲得に貢献したスティーブ・コリカ監督が日本の横浜F・マリノスに引き抜かれ、アシスタントコーチやGKコーチも退任した。昨シーズンのベースは残っているものの、通常より若い選手が多く出場することになる」
🎙️ 戦術面において、オークランドは普段どのように戦うのか?
マイケル
「前監督のもとで採用し、継続されるであろう基本システムは4-3-3だ。アバディーンで活躍し、イングランドでの経験も豊富なタフで大型のストライカー、サム・コスグローヴが攻撃の軸となる。彼の周囲にウインガーや攻撃的なサイドバックを配置し、高精度のセットプレーも強みとしている」
「スパーズに対してどれだけプレスをかけるかは未知数だが、試合の中で主導権を握る足がかりを探る戦いになるだろう。ニュージーランドの選手が世界大会で直面する最大の課題は、ボールの展開スピードへの適応だ。スパーズがどのようなメンバーをピッチに送り出しても、非常に高いレベルの戦いになる」
🎙️ ニュージーランドのフットボールファンにとって、この試合が持つ意味とは?
マイケル
「絶大だ。1987年にリーグ王者となったエヴァートンが来航した時の感動は今でも忘れない。その後、2007年にLAギャラクシー(デビッド・ベッカム)が来訪し、2014年にはニューカッスルとウェストハムがやってきた。しかし長距離移動となるため、トップクラブの来航は極めて稀だ」
「現在、ニュージーランドではプレミアリーグの人気がかつてないほど高まっている。明日のスタンドにはそれが反映され、女子ワールドカップを除けば、過去の代表戦やマンチェスター・ユナイテッド戦(1968年、2万6000人)を超える男子フットボール史上最多の観客動員数を記録する見込みだ」
🎙️ 会場となるイーデン・パークはオールブラックスのホームだが、国民にとってオールブラックスとはどのような存在か?
マイケル
「オールブラックスの試合は国全体の関心事であり、国民の誇りの象徴だ。会場のイーデン・パークは1994年以来53試合無敗を誇る、まさにニュージーランド・スポーツの聖地と言える」
「一方で、時代とともに変化も生じている。ラグビーの存在感は今も絶大だが、現在フットボールは競技人口において国内最大級のスポーツとなった。オークランドの街中では、オールブラックスのジャージと同じくらいプレミアリーグやオークランドFCのユニフォームを着た子供たちを見かける。新しい世代を中心にフットボール文化は確実に広がっている」
記事解説
オークランドFCは2026年のAリーグで初優勝を果たし、ニュージーランド勢として歴史的なタイトルを獲得したクラブである。しかし現在は大きな変化の渦中にあり、昨季の中心選手が複数離脱し、ワールドカップ参加組も不在。さらに、優勝へ導いたスティーブ・コリカ監督が横浜F・マリノスへ移籍し、アシスタントとGKコーチも同時に退任している。王者でありながら、今季の序盤は“再構築フェーズ”に入っていると言える。
その中で、オークランドFCの精神的支柱となっているのが酒井宏樹だ。浦和レッズでキャプテンを務め、AFCチャンピオンズリーグ2022優勝の立役者となりMVPを獲得し、マルセイユ時代にはスパーズへの移籍の噂も出た日本屈指の右サイドバックは、2024年にオークランドFCへ完全移籍し、クラブの初代キャプテンを任された。開幕戦では高速クロスでクラブ史上初得点を誘発し、チームは開幕6連勝を記録。Aリーグ初優勝の基盤を築いた酒井の存在は、クラブの競争力を支える最重要要素となっている。
酒井は日本代表として3大会連続でワールドカップに出場し、ロシア大会では全試合フル出場。欧州で鍛えられた守備力と継続性はAリーグでも突出しており、今回の試合でもオークランドFCの右サイドを支える中心選手となる。監督不在の状況でも、酒井の経験とリーダーシップはチームの安定に直結しており、若手主体の構成が予想される中で、彼の存在は戦術面・精神面の両方で大きな意味を持つ。
総じて、オークランドFCは“王者の肩書き”と“再構築の現実”が同居するチームであり、その中で酒井宏樹はクラブの軸として揺るぎない役割を担っている。今回の試合は、Aリーグ王者としての現在地を示すと同時に、酒井がどれほどチームを支えているかが明確に表れる一戦となる。

