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【財務】ニューカッスルは“歴史の逆側”に立たされているのか? PSR・SCR・UEFA規制がもたらす構造的ハンデ

【財務】ニューカッスルは“歴史の逆側”に立たされているのか? PSR・SCR・UEFA規制がもたらす構造的ハンデ

✔ ニューカッスルがPSRとUEFA規制の板挟みに
✔ 主力売却が財務健全化の中心手段に
✔ 欧州規制とプレミア規制のズレが深刻な不利を生む

レポート

BBCは、ニューカッスルが複数の財務規制の板挟みによって構造的な不利に直面していると指摘している。クラブは2024年にPSR違反を避けるためエリオット・アンダーソンを売却し、その後もアレクサンダー・イサク、アンソニー・ゴードン、サンドロ・トナーリなど主力が次々と離れた。記事は、過去12ヶ月でチームが分解されるような状況に陥り、複数の主力が移籍を望んだことを強調している。

ニューカッスルはUEFAの財務持続性規則に違反したため、今週「継続的な完全順守を約束する」と声明を出し、規制順守を最優先に掲げた。プレミアリーグでは欧州大会に出場しないクラブがSCR(Squad Cost Ratio)により収益の85%まで人件費を支出可能だが、欧州大会に出場するクラブはUEFAの基準に合わせて70%に抑えられるため、両規制の間で大きなギャップが生じる。BBCは、ニューカッスルが欧州大会に復帰した場合、SCR基準で支出した翌年にUEFA基準へ急転換する必要があり、財務構造が破綻しやすいと指摘している。

記事はまた、ニューカッスルの過去3年間の選手売却益がわずか1,200万ポンドにとどまっていることを紹介し、他クラブとの収益差が大きなハンデになっていると分析する。チェルシーやマンチェスター・シティが規制の緩い時代に巨額投資で成功した歴史と比較し、現在のニューカッスルはPSRとSCRとUEFA規制の三重苦により同じ戦略を取れない「歴史の逆側」に立たされていると描写している。

記事解説

ニューカッスルの状況を理解するうえで重要なのは、クラブの運営が無計画だったからではなく、プレミアリーグとUEFAが短期間のうちに複数の財務規制を重ねて導入した結果、収益構造の弱いクラブほど制度の急変に耐えられなくなるという“構造的な不利”にあるという点だ。

PSR(Profit & Sustainability Rules)は従来から存在する損益規制であり、過去3年間の累積損益を評価して最大損失許容額を超えると違反となる。ここで鍵になるのが欧州戦での収入で、PSRは3年評価であるため、ニューカッスルの場合は3年のうち2シーズンはCLに出場して高額の賞金と放映権収入を得ないと帳簿が耐えにくい構造になっていたと見られる。しかし、ニューカッスルはその3年のうち1シーズンしかCLに出場できず、残りのシーズンは欧州戦の収入がない状態で、スタジアム収益や商業収益もトップ6クラブより小さく、さらに選手売却益も3年間で1,200万ポンドと極端に少ないため、PSRの許容損失に対して構造的に脆弱だった。

「想定以上の赤字が出た」という現象は、クラブが無計画だったというより、PSRの評価タイミングと収益構造の弱さが重なった結果として説明できる。PSRは評価期間が固定されており、欧州戦の収入や商業収入が後から伸びても評価期間に間に合わなければ赤字は改善されない。ニューカッスルの場合、欧州戦の収入が1年しかない3年評価の中で、減価償却費や給与が積み上がる一方、売却益や商業収入が十分に増えなかったため、PSRの許容損失を超えそうになり、即時に利益を計上できる手段として自前育成で簿価の低いエリオット・アンダーソンの売却が「唯一の即時解決策」になった。これは無計画というより、制度の設計と収益構造の不利が重なった結果であり、PSRが「継続的な欧州出場」を前提に設計されていることの副作用と言える。

そこに追い打ちをかけたのが、2024/25シーズンから導入されたSCR(Squad Cost Ratio)である。SCRはPSRの追加規制であり、クラブはPSRとSCRの両方を同時に守らなければならない。SCRは収益に対する人件費比率を制限するルールで、人件費とは選手給与と移籍金の償却費の合計を指す。欧州の大会に出場しないクラブは収益の85%まで人件費を計上できるが、欧州の大会に出場するクラブはUEFAの基準に合わせて70%に抑えられるため、同じクラブが一年ごとに異なる上限へ切り替えなければならない。ニューカッスルのように収益規模が小さく、選手売却益も少ないクラブは、PSRで赤字を抑えつつSCRで人件費比率を管理し、さらにUEFAの70%規制にも対応しなければならず、制度の急変によって主力売却を繰り返すしかない状況に追い込まれている。

一方でスパーズの今季の立ち位置は、この構造を理解するうえで非常に象徴的だ。スパーズは今季欧州の大会に出場していないためSCRの85%枠で運営でき、スタジアム収益と商業収益がプレミア屈指であることから、給与と移籍金償却費を収益の高い水準まで積み上げても制度的に耐えられる。ここで重要なのは、スパーズがUEFAの懸念する「プレミアの高い支出能力が欧州全体のインフレを招く」という構造に直接乗じているわけではなく、プレミア内部でクラブごとに規制の重さが異なる“非対称性”を利用している点だ。ニューカッスルのようにPSRとSCRとUEFA規制の三重苦で身動きが取れないクラブ、チェルシーのようにSCRとPSRで売却圧力が強いクラブ、ウェストハムやブライトンのように収益規模が小さく高額オファーに弱いクラブが増えるほど、規制順守の余裕があるスパーズは「売らざるを得ない側」と「買える側」の構造的な差を利用して、プレミア内部から必要な選手を確保している。

さらに、今季のスパーズがSCRの85%枠をフルに使って人件費を80%近くまで積み上げてしまうと、来季欧州戦に復帰した瞬間にSCRの上限が70%へ落ち込み、戦力をさらに強化したいタイミングで逆に人件費を削らなければならないという最悪の事態が発生する。スパーズはこの“規制の谷間”を理解したうえで、今夏の補強を進めつつも人件費の積み上げを慎重に管理していると解釈できる。

つまり、今夏のスパーズの動きの巧みさは、単に資金力に物を言わせているのではなく、PSRとSCRとUEFA規制という複数の枠組みが生む非対称性とタイミングを読み切り、規制の急変に追い込まれたニューカッスルとは対照的に、制度の構造そのものを戦略的に利用している点にある。何を意味するかと言うと、資金が潤沢にあるかどうかにかかわらず、高額の補強をした場合には、高額の選手放出も不可避であるという点だ。しかも、補強時の移籍金が高く、まだ減価償却が進んでいない(在籍期間が短く、残り契約期間が長い)選手の売却ほど、SCRにおいては人件費削減効果が大きく、財務的なメリットが大きい。

ブライトン行きが決まったヴシュコヴィッチは、今夏のスカッド整理において財務規制を活かすためには「売ることのメリットが大きい」選手であり、制度上は最も効率的な人件費調整手段となる。一方で、こうした選手はスポーツ面では将来の中核戦力になり得る資産でもあるため、財務効率と競技価値のトレードオフをどこで線引きするかがクラブ運営の成熟度を問う領域となる。

投稿元:Tonali’s sale to Spurs – are Newcastle on wrong side of history with rules?