フラムに1-2で敗れ、降格の足音が現実味を帯びてきた。暫定ヘッドコーチのイゴール・トゥドールは判定への怒りを爆発させ、主審を「ホーム寄りの審判」と断罪。一方、主力の中盤イヴ・ビスマは現状を「重大な非常事態」と表現した。10戦未勝利という32年ぶりの不名誉な記録が、名門を飲み込もうとしている。
POINT
レポート
「ホーム審判」への憤りとチートへの断罪
フラムの本拠地クレイヴン・コテージで2-1の敗戦を喫した後、イゴール・トゥドールは怒りを隠そうとしなかった。彼はフラムの先制ゴールに繋がったラウル・ヒメネスによるラドゥ・ドラグシンへの接触を「チート」と呼び、トーマス・ブラモール主審の判断を「ホームチーム寄りのレフェリング」と二度にわたって非難した。
「彼はホームチームの審判であり、フットボールを理解していない。今日の審判は信じられないほどだった。あれをファウルにしないのは狂気の沙汰だ。ヒメネスはボールを見ておらず、いかにして欺く(cheat)かだけを考えていた。100人中99人がファウルだと言うだろう。判定の一貫性の欠如は、先週のコロ・ムアニのゴール取り消し(アーセナル戦)を見れば明らかだ。今日はすべての判定が相手側にあった。非常に不快だ」
トゥドールは、審判がフットボールにおける「正誤の感覚」を持っていないと断じ、判定基準の不明確さが試合の行方を左右したと強く主張している。
「重大な非常事態」:32年ぶりの泥沼
名門トッテナムが最後に2部リーグへ降格したのは1977-78シーズンまで遡る。それ以降、トップリーグの地位がこれほど脅かされたことは稀だ。昨シーズンも17位という低順位に終わったが、当時はアンジェ・ポステコグルーの下でヨーロッパリーグ制覇に集中しており、降格圏とは13ポイントの差があった。
しかし、現在は違う。プレミアリーグ16位に沈み、降格圏との勝ち点差はわずか「4」。さらにリーグ戦10試合未勝利という、オジー・アルディレス政権下の1994年以来、32年ぶりとなる不名誉な泥沼に足を踏み入れている。試合後、イヴ・ビスマは悲痛な面持ちで語った。
「また負けてしまった。僕らにとってもクラブにとっても簡単ではない。これは重大な非常事態だ。多くのことを変えなければならないし、勝利のために努力を注ぎ込む必要がある。今はただ、ただ苦しい」
専門家たちの警鐘:降格のリアリティ
BBCの解説を務めるクリス・サットンは、ビスマのインタビューを聴き「アラームが鳴り響いている。スパーズファンなら、降格のリアルな危険を感じるはずだ」と警告した。
また、元スパーズ守護神のジョー・ハートも「28試合を終えて勝ち点29。これは深刻、本当に深刻な状況だ。チャンピオンズリーグを楽しむ余裕などない。リーグ戦でいかに勝ち点を積み上げるかに全神経を注ぐべきだ」と語り、残留争いの厳しさを強調している。
トゥドール体制となってから連敗を喫し、いわゆる「新監督ブースト」も見られない現状に対し、サポーターからは「俺たちのトッテナムを返せ」という悲痛なチャントが飛んだ。トゥドールは「問題は複雑だ。自信の問題であり、システムの問題ではない。今はトレーニングに集中し、団結してこの危機を乗り越えるしかない」と必死に前を向いている。
「一貫性」という幻想:デイル・ジョンソン記者のVAR分析
トゥドールが訴える「判定の一貫性の欠如」について、ESPN等のエキスパートとして知られるデイル・ジョンソン記者が冷徹な分析を提示している。ジョンソン氏によれば、VARは「判定の一貫性」を担保するために存在するのではなく、あくまで「明白かつ疑いのない誤審(clear and obvious error)」を修正するために運用されているという。
今シーズンのトッテナムに起きた事例を振り返れば、その矛盾が浮き彫りになる。
- リバプール戦: ウーゴ・エキティケがクリスティアン・ロメロに手をかけながら得点したが、ゴールは認められた。
- アーセナル戦(先週): コロ・ムアニのゴールが、ガブリエウへの「わずかな接触」を理由に取り消された。
- フラム戦(今回): ラウル・ヒメネスのプッシングがありながら、判定は覆らずゴールとなった。
ジョンソン氏は「すべての状況が微妙に異なる中で、完全な一貫性を期待するのは夢物語だ。VARは現場の主審の判断(Referee’s call)を尊重するという原則を貫いており、それが結果として一貫性の欠如に見えているに過ぎない」と指摘。フィールド上の基準が試合ごとに揺れていることが、トゥドールの不満の根源であると分析した。
背景・ソース
今回のレポートは、BBCスポーツのマイケル・エモンズ記者による現地での取材に基づいている。また、VARが「一貫性」ではなく「明白な誤審の修正」を目的としているというデイル・ジョンソン記者の分析も添えられており、トゥドールが主張する「一貫性の欠如」が、現在のVARの運用ルール上では不可避なものであるという冷酷な現実も浮き彫りになった。
参照元:Tudor fury at ‘home referee’ as Spurs left in ‘big emergency’(BBC Sport)
Quiz Cockerel
トッテナムが現在記録している「リーグ戦10戦未勝利」という泥沼の記録は、何年以来の最悪な不名誉記録か?
1. 1994年(オジー・アルディレス政権下)
2. 2004年(ジャック・サンティニ政権下)
3. 2008年(ファン・デ・ラモス政権下)
4. 2021年(ヌーノ・エスピリト・サント政権下)
正解:1
1994年にオジー・アルディレスが率いていた際、クラブは同様の未勝利記録を樹立した。32年ぶりにその暗黒時代に匹敵する不振に陥っており、当時の状況を知るファンからは、降格への恐怖がかつてないほど現実的なものとして語られている。
スパーズジャパンの考察
1. 「ホーム審判」という言い訳と決定力不足の現実
とはトゥドールが審判を「ホーム寄り」と批判し、判定の一貫性のなさを訴える気持ちは理解できる。しかし、BBCのスタッツが示す通り、フラム戦でのスパーズの枠内シュートはリシャルリソンの得点となったヘディング1本のみだ。「枠内シュート1本」に終わっている攻撃組織の不全から目を背けるこ「リスク」であると言わざるを得ない。
2. 失われたアイデンティティへの飢え
スタジアムに響いた「俺たちのトッテナムを返せ」というチャントは、単なる勝利への渇望ではなく、クラブとしてのアイデンティティの喪失に対する悲鳴だ。エンターテインメント性と勝利を両立させてきた誇り高い伝統が、今や「13ポイントのアドバンテージがあった昨季より過酷な残留争い」に取って代わられた。サポーターにとって、今のチームは自分たちが愛した「スパーズ」ではないという絶望感が支配している。
3. ビスマが鳴らした「非常事態」のゴング
イヴ・ビスマが「重大な非常事態(big emergency)」という強い言葉を使ったことは、ドレッシングルーム内でも現状が楽観視できない極限状態にあることを示している。トゥドールは「システムの問題ではない」と語るが、選手たちが「何かが根本的に間違っている」と感じている以上、精神論だけで解決するのは難しいだろう。次戦のクリスタル・パレス戦で勝利を手にできなければ、非常事態はパニックへと変貌する。
