トッテナムの元チーフ・フットボール・オフィサー(CFO)であるスコット・マンが、母国オーストラリアのメディア『Football 360』のインタビューに応じ、ノースロンドンでの2年間を詳細に振り返った。シティ・フットボール・グループ(CFG)から鳴り物入りで加入したマンが直面したのは、改革を阻む組織の壁と、勝利への渇望を欠いたクラブ文化だった。
POINT
レポート
メディカル部門の改革挫折と負傷禍の背景
スコット・マンは、トッテナムが自身が在任している期間から急激に悪化している深刻な負傷問題について、自身の無力感と共にその内情を明かした。マンは就任後、アカデミーからメディカルに至るまで全部門の調査(レビュー)を実施。負傷者を減らすための具体的な改革案を経営陣に提示したが、その提言が完全には受け入れられなかったという。
「我々は多くの変更を断行し、メディカル部門の質を向上させようとした。しかし、推奨した変更の一部は認められたものの、他の部分は拒絶された。現在のスカッドが直面している異常な負傷状況を見れば、当時から状況が大きく変わっていないことは明らかだ。この責任は私にもあるが、組織として最適な決断が下されなかった結果だ」
暫定ヘッドコーチのイゴール・トゥドールが、初日の練習で起用可能な選手がわずか13名しかいないという現実に直面している現状は、このメディカル体制の不全が招いた構造的な問題であることを示唆している。
勝利への執着:シティとスパーズの決定的な差
マンチェスター・シティ(CFG)でキャリアを築いたマンにとって、トッテナムのドレッシングルームや組織全体に漂う空気は、異質なものに映った。彼はシティのカルドゥン・アル・ムバラク会長とのエピソードを引き合いに出し、文化の違いを強調した。
「シティでは、プレミアリーグで2位に終わった翌年の取締役会で、会長が『これは受け入れがたい結果だ』と断言することから会議が始まった。そのメンタリティがクラブの隅々まで浸透していた。しかし、トッテナムでは同じような感覚を持つことはできなかった。このレベルのフットボールでは、土曜日の試合で勝ち点3を掴めるかどうかの差は、そうした文化やメンタリティの微細な違いによって生まれるのだ」
ファン感情への違和感とロンドン特有の重圧
マンが最も困惑したのは、昨シーズンのマンチェスター・シティ戦でのスタジアムの雰囲気だった。アーセナルの優勝を阻止するために、ファンが自軍の敗戦を容認、あるいは望むような姿勢を見せたことに対し、「フットボールの世界で働き、勝利を目指す者として、どうしても理解できなかった」と吐露した。
また、アンジェ・ポステコグルーに対する英メディアの執拗な追及についても言及。
「ロンドンのメディア環境は息が詰まるほど(suffocating)で、シティなど他のクラブと比較してもその露出度と批判の鋭さは異次元だった。アンジェのリーダーシップは素晴らしかったが、あの環境下で指揮を執り続けることの過酷さは、オーストラリアの人々が想像する以上だった」と述べ、ポステコグルーが常に晒されていた異常な重圧を擁護した。
背景・ソース
今回のインタビューは、現在イタリアのパルマでフットボール部門の責任者を務めるスコット・マンが、母国のスポーツ番組『Football 360』で語ったものだ。
マンはポステコグルー招聘の立役者の一人であり、ダニエル・レヴィがクラブを離れる直前の混沌とした時期をCFOとして過ごした。彼の証言は、トッテナムがピッチ外の組織構造においても、いかに多くの課題を抱えているかを浮き彫りにしている。
参照元:Scott Munn opens up on Tottenham frustration and why club gets so many injuries
Quiz Cockerel
スコット・マンがトッテナムに加入する前に所属していた、マンチェスター・シティを筆頭とする世界的なフットボール組織の名前は何か?
1.レッドブル・グループ
2. シティ・フットボール・グループ
3. パリ・サンジェルマン
4. 777パートナーズ
正解:2
スコット・マンはシティ・フットボール・グループ(CFG)からトッテナムにやってきた。彼はこの組織で培った「勝者としての文化」をノースロンドンに持ち込もうとしたが、組織の壁に阻まれる形でその任を終えることとなった。
スパーズジャパンの考察
1. メディカル改革の拒絶が招いた「13人の惨劇」
スコット・マンの告白は、トッテナムの経営陣が「ビッグクラブ」への脱皮を自ら阻んだことを示唆している。トゥドールが直面している「フィールドプレーヤー13名」という異常事態は、不運な偶然ではなく、推奨されたメディカル改革を拒んだツケとの見方だ。一方で、マンおよびポステコグルーが就任する以前にここまでの負傷者の問題は抱えておらず、中途半端な改革が事態を悪化させたことも明白だ。
2. 勝利よりも「ライバルの失敗」を喜ぶ病
マンが「理解不能」と断じたシティ戦のファン心理は、英国特有のフットボール文化でもあり、ポステコグルー同様にオーストラリア人がゆえに理解できなかった部分であろう。レスター優勝のシーズンで、スパーズ以外の他の多くのクラブのファンが見せた姿勢からも、「スパーズだけのファン文化」では無いことは明確である。一方で、そのファン心理とは別にクラブ内の文化を「勝利者のメンタリティ」に向かわせることが彼らの役割であったはずだが、他責にしている感は否めない。
3. ロンドンという「窒息する舞台」の魔力
マンが表現した「suffocating(息が詰まる)」という言葉は、スパーズの監督職がいかに特殊な環境であるかを表している。膨大な数のジャーナリスト、一挙手一投足をSNSで拡散される環境、そして常に付いて回る「Spursy(スパージー:スパーズらしい詰めの甘さ)」というレッテル。これらを跳ね除け、組織を正常化させるためには、ポステコグルーやトゥドール個人の力だけでなく、広報部門を含めたクラブ内の全面的な「改革」が不可欠だが、このサポートについてもスコット・マン以前は(コンテの断末魔を除けば)十分に機能していたはずだ。
