しかし、今回のトーマス・フランクの解任劇、およびその後任選びのプロセスは、これまでの伝統的なトップダウン方式とは一線を画している。ブーチャーは現在、カリブ海に拠点を置くオーナー一族と、ロンドンの現場を預かるヴィナイ・ヴェンカテシャムCEOら経営陣を繋ぐ「唯一の、および決定的な連絡窓口」として機能している。彼はルイス・ファミリーを代表する「キングメーカー」として、ヴェンカテシャムと緊密に連携しながら、合意形成に基づく新しい意思決定モデルを構築しようと試みているのだ。
ブーチャーにとって、フランクの後任を任命することは、ルイス・ファミリーがダニエル・レヴィという強力な個人の支配を排し、クラブの完全な統治権を握って以来、初めて直面する真の試練となる。トッテナムは現在、プレミアリーグ16位という著しく不名誉な順位に沈み、かつては禁句であった「残留争い」の現実に直面している。
この「バスケットケース(壊れた組織)」と化したクラブを、どのようなプロファイルを持つ指揮官に託すのか。ブーチャーの判断一つが、スパーズが再び欧州最高峰の舞台へと返り咲くのか、あるいはさらなる凋落の一途を辿るのかを分かつことになる。
また、ブーチャーの影響力は単なる人事のみに留まらない。彼はダニエル・レヴィ時代に構築された、会長一極集中のガバナンスを解体し、ルイス・ファミリーの意向をより直接的に経営に反映させる役割を担っている。これまではレヴィが防波堤となり、あるいは独自の判断でリクルートや財務を差配してきたが、現在はブーチャーという「一族の代弁者」が、すべての戦略的な承認プロセスの頂点に君臨している格好だ。
25年近く続いた「レヴィ体制」の終焉から始まったこの大いなる転換期において、ニック・ブーチャーというアメリカ人エグゼクティブが下す一連の決断こそが、トッテナムの次代を定義する歴史的なマイルストーンとなることは疑いようがない。
