スタッツから見るクリントン・エンジの価値
このエントリーをはてなブックマークに追加 Check スパーズ関連のメディア報道・その他2015年8月15日
プレミアリーグのクラブも利用しているオンライン・スカウティングシステム『WyScout』をもとに、トッテナムの獲得ターゲットであるクリントン・エンジを評価してみよう。

昨シーズン、フランスのリーグ・アンにおいて王者パリ・サンジェルマンに迫ったリヨンで、若く活気に満ちたチームの中で印象的な活躍を見せたクリントン・エンジ。彼にはトッテナムのスカウト・チームが注目しており、間もなく移籍が成立するものとみられている。

報道によれば、移籍金はおよそ1200万ポンドで両クラブが合意しているとされ、スパーズは週末のストーク戦よりも前に移籍を成立させたい模様である。昨シーズンの成果からさらなる成長を遂げるべく、これまでリヨンのカリスマ会長ジャン=ミシェル・オラスは、この若きフォワードの売却に消極的であったが、元マルセイユでゲームメイカーのマテュー・ヴァルブエナの獲得がその状況を変えたものと見られている。

では、スパーズやマウリシオ・ポチェッティーノ監督が獲得を望むクリントン・エンジとはどのような特徴をもつ選手なのだろうか。『WyScout』を用いながら、解明していこう。


ともに故郷はカメルーンとなるクラブOBでディフェンダーとして活躍したジャン=ジャック・ノノによるクラブへの助言から、2010年にエンジはリヨンに移籍した。それから彼はリヨンBチームの一員としてフランス4部リーグを戦い、その才能が開花する時を待つことになった。

2011-12シーズン、リヨンのユースチームで14試合に出場。そのうち6試合で先発し、わずか合計出場時間601分の間に5得点を記録している。彼がまだ大きな結果をあげていない頃から、クラブ上層部はすでに彼のことを注視していた。

2012-13シーズンになると、彼はユースチームでプレーしながら、ファーストチームのトレーニングにも参加するようになった。ユースチームで26試合2得点という結果だったそのシーズンは失意に終わったように見えた。しかしこの年、彼は交代選手として4度ファーストチームの試合に出場し、合計39分間リーグ・アンの舞台に立つこととなった。

次の年も、ほとんどの期間、彼はファーストチームとユースチームの間を行き来した。4部リーグでは19試合の出場で8ゴールを決め、リーグ・アンでは3試合の交代出場で無得点に留まった。彼がファーストチームに与えたインパクトは決して大きなものではなかったが、当時のレミ・ガルデ監督は明確にこの若き才能に信頼を寄せ続けていた。

また、『クリントンはとても若く偉大な選手。未来のエトーだ。』というオラス会長のツイートによって、この2013-14シーズンに彼は大きな自信を得ることとなった。こういった評価は、エンジにとっては時期尚早かもしれないが、一方で彼らのプレースタイルを見れば、なぜこういった比較がなされるかがわかるだろう。


エンジはリーグ・アンの2014-15シーズンを、7ゴール7アシストという好成績とともに終え、加えてヨーロッパリーグではルーマニアのアストラとの試合でゴールを記録している。たった15試合という先発出場に対して、これはこのうえない成績であり、とりわけファイナルサードでの彼の動きと、相手選手を追い続けるプレッシングからは彼自身が目に見えて成長していると実感しているようだった。

エンジの主な強みは、間違いなくその驚異的なスピードである。今年の4月26日に行われたスタッド・ランス戦、リヨンがコーナーキックを守る場面で、ゴールキーパーのアントニー・ロペスがパンチングでクリアをしたシーン。エンジの全速力のスピードがよくわかる一例だ。

アレクサンドル・ラカゼットから綺麗な縦パスがエンジの前方のスペースに入った瞬間、カメルーンにルーツを持つ彼は一瞬でボールに追いついた。自陣のゴールライン際にいたかと思うと、その5秒後にはハーフウェイ・ラインまで到達し、追いかけるランスのディフェンダーを置き去りにした彼は、ほぼ単独で衝撃的なカウンターアタックを展開した。

セオ・ウォルコットがそうであるように、スピードスターたちはしばしばフットボールIQが足りないといった批判がなされるが、エンジはオフ・ザ・ボールでクレバーな動きを見せ、常に最終ラインの裏を取ろうと狙っている選手だ。

今年の5月23日に行われたレンヌ戦では、ミッドフィルダーのジョルダン・フェッリがルーズボールを拾った場面。まだボールを持つかどうかというタイミングで、すでにエンジはピッチ中央から前線へ勢いよく走り出していた。フェッリから最終ラインの裏へシンプルにパスが通ると、エンジはカバーに入ったディフェンダー、シェイク・エムベングを抜き去り、フェイントを交えながら、ゴールキーパーを惑わせ、落ち着いてボールを流し込んだ。

絶えずオフサイドラインのギリギリのところで動き続けながら、エンジはディフェンダーとゴールキーパーの間の膨大なスペースのいたるところへ本能的に現れる。常に危険な存在となる彼はマークをする相手を悪夢に陥れるのだ。


エンジのもう一つの目覚ましい特徴として、ゴールキーパーとの駆け引きの巧さが挙げられる。若い選手に共通しているのは、ゴール前のチャンスで動揺してしまい、ゴール隅を狙うべきところでキーパーにシュートを当ててしまったり、大きく枠を外してしまったりする未熟さだ。これは至って当然のことであり、フットボーラーとして成長する過程でその能力を伸ばしていくことが期待されるが、エンジは21歳という若さにもかかわらず、チャンスをきっちりとものにする生来の才能を兼ね備えている。

2014-15シーズンに彼が放ったシュートのうち枠内シュートの割合は73%であった。数字だけを見ると至って平均的なようにも思えるが、リーグ・アンに在籍する22歳以下の他のフォワードたちと比べてみると、この数字はトップクラスのものである。

たとえばモナコのアンソニー・マルシャルは56%、パリ・サンジェルマンのルーカス・モウラは47%、そして元リールで現リヴァプールのディヴォック・オリジは44%というスタッツでシーズンを終えており、こうしてみるとエンジに比べて彼らは非常にチャンスの効率が悪いといえる。またエンジの冷静さが優れているのは、同世代の間だけではなく、リーグ屈指のストライカーたちとも十分に渡り合えるものであった。エディンソン・カヴァーニ(59%)、アレクサンドル・ラカゼット(59%)、アンドレ=ピエール・ジニャック(52%)、マックス・グラデル(49%)らはみな、エンジの73%という数字からは大きく差をつけられているのだ。

それではリーグ・アンで彼よりも優れていたフォワードは誰だったのだろうか?そう、ご想像の通り、それはズラタン・イブラヒモビッチだ。彼の枠内シュート率は、エンジをわずかに上回る74%。昨シーズンのエンジは7ゴールの記録に留まったが、チャンスの数も少なく激しいプレミアリーグにおいて、一つ一つの好機をすばやく掴み取る前線の選手はスパーズにとって大きなアドバンテージとなるはずだ。

175センチという身長からもわかるように、エンジはターゲットマンとしての役割はあまり期待できないかもしれない。しかしながら、彼はセンターフォワードの位置だけでなく、左右のウイングどちらでもプレーすることができる。相手選手との1対1の場面においてもこのカメルーン代表は心配するに及ばない。昨シーズン、彼は合計137回のドリブルしており平均すると90分間に8.1回ほどドリブルしていることになる。


再び数字の話になるが、このスタッツは元モナコでアトレティコ・マドリードへ移籍したやニック・フェレイラ・カラスコの90分間ごとにドリブル数10.3回という記録に次いで、同世代の誰よりも優れたものであった。もしも彼がドリブラーとして成長を望むのであれば、いつ相手に勝負を仕掛けるべきか、あるいは仕掛るべきでないかを学ぶ必要があるだろう。21歳の彼は、相手選手に囲まれた場面で、ボールを戻してボールをキープするよりも、相手守備陣を一挙に抜き去ろうと勝負を仕掛け、ボールを奪われてしまうという若さをしばしば見せていた。

彼が平均して90分間にドリブルで相手選手を抜き去る回数は2.26回と、これもまた比較的優れたものであるが、パリ・サンジェルマンのルーカス・モウラは4.28回と大きく差をつけられている。彼の無謀ともいえるチャレンジの姿勢は、アレクサンドル・ラカゼットやナビル・フェキルの好調も相まって、ファーストチームでの出場機会を減らした彼にとっての焦りからきたものだったかもしれない。これから数多くの試合を経験するなかで、この悪い癖を抑える落ち着きを学んでいくと思われるが、同時に彼はまだ優れたドリブラーになるべく、その才能と成長の余地を大きく残しているという見方もできるはずだ。

若く意欲的な選手たちにこそ、力を証明するチャンスを与えたいというリヨンの哲学は、エンジにとって非常にマッチしているものの、彼が今すぐにナビル・フェキルやアレクサンドル・ラカゼットといった選手たちをベンチに追いやる存在になるとは考えづらいだろう。加えて、今シーズンもリヨンは4-3-1-2のフォーメーションを維持するとみられ、新加入のマテュー・ヴァルブエナやクラウディオ・ボーヴュといった選手たちがより乗り越えなければならない壁として立ちはだかる。その激しいポジション争いは21歳とまだ若いエンジには少々荷が重いようにも思われる。

22歳の誕生日を間近に控え、次のレベルにステップアップが期待される彼にとって、一定の出場機会こそが必要であり、プレミアリーグ、そしてトッテナムこそが彼に相応しい環境といえる。彼は、プレミアリーグで成功を収める資質を備えており、また今後も成長するための潜在能力を持ち合わせている。マウリシオ・ポチェッティーノ監督のハイプレスを志向するフットボールから彼は守備面での貢献のしかたを学ぶことができるだろうし、同時にプレッシングやカウンターアタックといった面で、より一層彼が才能を開花させる期待もできる。

クリスティアン・エリクセンやナセル・シャドリ、ハリー・ケインといった選手たちとの関係性は、まだ未熟な才能の原石を磨き上げ、彼を危険で巧みなフォワードへと成長させるはずだ。エンジの獲得は、トッテナムにとって非常に賢い補強になること間違いないだろう。


❏選手データ

名前:クリントン・エンジ
年齢:22歳
生年月日:1993年8月15日
国籍:カメルーン
所属クラブ:オリンピック・リヨン
ポジション:フォワード
身長:175cm
体重:68kg 
利き足:右